それでも、救いたい人がいるということ
電車の中で泣くのが趣味だ。
家に帰ったら泣こう、とか
トイレで泣こうなどとは思わなくなった。
泣きたい瞬間が多すぎるから、
泣きたい時にすぐ泣くことにした。
東京の街が好きだ。
泣いても誰も咎めない。見て見ぬふりをしてくれる。
だって、みんないろいろあって大変だものね。
目の前の人を救うほどの余裕はないし、
目の前の人を救うことがどれほどに難しいかをみんな知っているのでしょう。
きっと、みんなそれぞれに苦い経験を伴って。
やるせなさが漂うこの街の匂いが好きだよ。
少なくとも、ありがた迷惑な自信に巻き込まれるよりかはずっとましだ。
私はあなたの人生を背負えない。
あなたも、私の人生を救えない。
心配をありがとう。
「元気出して」とか、月並みな言葉を言うのなら少しは躊躇ってくれるとありがたい。
「大丈夫?元気?」と聞かれると「大丈夫、元気だよ」と少し嘘をつく。
君を安心させるためだけにつく嘘のたびに私の何かが少し削れる気がする。
お忙しいところ恐縮です。まず私は元気でいたくない気分なので、大丈夫じゃない私をそのまま愛してくれれば幸いです。
それでも電話がかかってくる。
君から電話がかかってくる。
まぁ元気出せよと君の声。
そうねぇと空っぽな声で返事をする。
笑わせようととぼける君に、元気なフリをして笑ってみせる。
何も言えないから心の中で何度も謝る。
理想の女の子になれなくてごめんなさい。
ごめんね。もう、電話切るね。
中央線に山手線、銀座線、東横線。
泣いたことのある路線でスタンプラリーをしている。
大江戸線はまだだから、そこで泣けたらラッキーだ。
人の人生はそう簡単には救えないよ。
僕らはびっくりしちゃうくらい無力なんだ。
自分の人生を必死に生きるしかない。
それでも、それでも、救いたい人がいる。
こんなにどうしようもない世界で、私は君のことを心配している。
その後、病状はいかがですか?
心無い上司の言葉なんて忘れてほしいよ。
ひどいことを言う彼氏なら別れちゃえばいいのに。
そんなに手首を切ったらシャワーが染みて痛いでしょう。
最近はどうですか。眠れてますか。
出来ることなら、君には危ない仕事はしないでほしいと思ってる。
だってそんなにたくさん薬を飲むのは心配になっちゃうよ。
君の好きなようにしたらいいと思ってるけどさ…。
これは私のわがままだけれど、
ただ、穏やかに暮らしてほしいんだ。
君を傷つける人がいることが許せないよ。
君には幸せでいてほしい。
君の優しすぎるところが好きだ。
人のことを気遣いすぎて悩んでしまう君の不器用さが、本当に好きなんだ。
君の静かな信念を、私だけは理解していたい。
君は綺麗だ、とびきり美しいよ。
私は君への賛歌をずっと捧げていたいんだ。
君が大好き。
それだけを祈りながら私は眠る。
ただ君のためだけに私は在るんだよ。
平坦な言葉しか出てこなくてごめん。
でも、本当にそう思っているよ。
君に少しでも届いたらいい。
一緒に夜を乗り越えよう。