パン屋の彼女
コンビニで好きなだけスイーツを買って、大学のラウンジで落ち合うのが私と彼女のお決まりのコースだった。
みかんの入った大きな200円のゼリーと、一番コスパのいいつぶグミ、あとは焼き鳥の皮。ファミリーマートでの豪遊はこれで完璧。私たちはお金がなかったから。
彼女は大学のサークルの先輩で、私がそのサークルをやめても仲が良かった唯一の人だった。
彼女は地元のマルイのパン屋で働いていた。私が本当にお金がなかった時、彼女からもらった廃棄のパンを食べて凌いでいた。私たちはいつもお金がなかったから、遊ぶ時は電車賃のかからないところで遊んだ。パン屋の時給が五十円上がった時、ほんとに喜んで報告してくれた。
彼女が使っている手帳はセーラームーン。『うる星やつら』のラムちゃん柄のを使ってた年もあった。可愛い絵柄の手帳には、荒っぽい字でびっしりバイトの予定が書かれていた。
フリルのついたワンピースを着て、髪色はピンクや金色だった。いっぱい本が入ったリュックには、セーラームーンのキーチャームと、なぜか文豪のキーホルダーがぶら下がっていた。一人で記念館へ行って、買ってきたのだと言う。器用ではないけれど、真面目な学生だった。私は、彼女が話してくれる授業の話が大好きだった。
彼女とは疎遠になって1年が経つ。
私が、辞めたサークルの悪口をLINEで言ってしまったからだと思う。数時間後にごめん、と謝ったけど、それは今になっても既読がついていない。
ほかにも理由があったかもしれない。そう言えば、私があけすけに自分のセックスの話をするのを、真剣にやめてほしいと言われたこともあった。
きっと、すれ違ってしまった。友達でいられる時間が終わったのだと思う。私が何かを改められたのなら今でも友達でいられた、とは思わない。きっと、いろんなことの積み重ねの結果だった。
コンビニのお菓子を食べながら、「めいちゃんとはずっとこんな感じで友達だと思う」と彼女が言ったのを、私は忘れられずにいる。そうだね、と笑った11号館のあの席まで、鮮明に。
夏の終わり、あなたがずっと好きだった人を、それを知っていた人に横取りされた話を聞いて、私は泣いたよね。高田馬場のベローチェで。あれから2年経つんだね。
いま好きな人はいますか?仕事はどうですか?最近は何の演劇をみたの?私はね、とっても大事な彼氏ができたよ。
あなたの住む街へこの前行ったんだよ、やっぱり随分遠いね、大学からは。今でもきっとあの街に住んでるんでしょう?就職したし、黒髪になってるのかな。
古着屋へ行くとあなたを思い出すよ。
初めて一緒に行ったカフェはつぶれちゃったよね、今どうなってるのかな。
あなたの好きなアイドルの名前を聞くたびに胸が痛むよ。カラオケで歌ってたね、間奏で色々説明してくれたよね。
正直あなたと行くことがなくなって、もうほとんどカラオケに行かなくなったよ。
もう取り戻せない色々なことのひとつが、あなたです。あなたの卒業式に、あなたの袴姿と一緒に写真を撮りたかった。届かないけど卒業おめでとう。届かないけれど、幸せでいてね。遠くから、インスタグラムのあなたの笑顔を眺めながら。