人を愛しすぎてしまう人たちに祝福を

めいちゃんのブログです

縹色の手紙

なんできみが死んだの。死ぬなら私の方だったじゃない。


また季節が冬にぶり返している。

コートを首元まできっちり締めている

ショーウィンドウに移る自分の姿を見て、

Kちゃんのご両親のことを思った。

焼香もろくに出来ず、遺影の前で泣きじゃくった私を

ご両親はどう思っていたのだろうか。

何も変わらない小娘だと思ってうんざりしているだろうか。

娘に会わせたくないのかもしれない。

それとも、私のことはもうお忘れでしょうか。

 

冬の日のきみを思い出している。

雪が降った日、私が「外見て!雪だよ!」とメールを送ると、

きみからもまったく同じタイミングで「雪降ってきた!」と

メールが届いたときがあったね。

雪が降るたびに思い出すよ。

きみのことを、繰り返し繰り返し、思い出すんだ。

 

きみは、私の大きな大きな希望だった。

きみからもらった言葉や、ぬくもりや、愛を支えにして、

私はなんとか生きてきた。

きみに別れようと言われたあの春、あの皮肉なほど鮮やかだった春から、

私は数年間かけて、きみと離れて生きることを受け入れた。

きみはきみ自身の、わたしは私自身の人生をそれぞれ歩むんだって、

ようやく受け入れられるようになったころだった。

きみと私が関係のない人になるんだということを分かるまでに、

だいぶ時間がかかったよ。

それなのにいま、「訃報」ってなんなのよ。

 

どうしたらそんなに賢く、優しくなれるんだろうといつも思っていたよ。

本当に尊敬してたんだ。きみより優秀で、魅力のある人間を私は見たことない。

これはきみが死んだから言ってるんじゃないんだ。

知ってるでしょう、わたしはきみのことをもう6年もずっと好きなんだよ。


きみが死んでから、わかったことがいくつかあったんだ。

友達にきみの話を聞くと、みんな褒めるばっかりでびっくりしちゃった。

みんな一様に尊敬の眼差しだった。

私はきみを尊敬しているとともに、きみの弱さも知っていた。

きみがくれたものは本当にたくさんあったけど、

私がきみにあげたものもいっぱいあったんだと思う。

弱音を吐く姿や、見栄をはるとこも好きだったよ。

きみはいつでも可愛い人だった。


今日はね、新しいメンタルクリニックに行ったよ。

待合室にいる人たち、みんな病気とか障害なんだって思って

ちょっと怖くなっちゃったよ。

受付のスタッフの人が嫌に猫なで声で話すから、

それも居心地が悪くって。


きみは、神経科に通うのを嫌がってたね。

自分の病気が、まるで自分の弱さを証明しているみたいって。

あたし、きみの強がりなところも好きだったな。

「だって試験管3本分くらい採血するんだよ!?」って

どれだけ嫌か説明してたね。

まるで子どもみたいな瞬間があったよ。私は本当にそういうきみが好きだった。

 

きみに聞かせたい話が4年分あったし、きみに聞きたい話が4年分あったよ。

わたしは大学に入ってからいろんなことをしたんだ。いろんな人と会ったよ。

喜んで話を聞いてくれるきみの顔が浮かぶんだ。

きみを連れて行きたい場所が、きみに聞かせたい音楽がたくさんあったよ。


ねぇ、傲慢だと思うんだけど、わたしはね、

なんできみと違う場所で生きているのか意味が分からなかったし、

きみの人生に絶対にわたしが必要だと信じて疑わなかった。

もちろん、私の人生にもきみが欠かせないと思っていた。

きみと一緒に過ごせないこの1秒1秒が惜しいと思っていた。


でもそんなことを思ってるのは私だけで、

結局のところ私はずっと片思いだったのかなと

近頃は思っていた。

 

だから、きみが周りの友達に私の話をしていると聞いて嬉しかった。

「私の人生の中にめいちゃんがいないのは、何か大きなものが欠けているような気がする」って言ってたって。

嬉しかったよ。

私たちはあのとき、もうどうにもならなかったけど、

それでもきみがあの頃のことをなかったことにしてないと知って、嬉しかった。


苦しかったね。

あのとき、苦しさと喜びと悲しさが一気に私たちに訪れて、

ほとほと私たちふたりは疲れてしまった。

途方も無いほど傷つけあって、それでも一緒にいたかった。


別れたあとも、私の中にきみの言葉が生き続けていたし、

そばにいるような感覚があったよ。

いつか、私が幸せに暮らしていることが風の噂で届けばいい。

きみが結婚したことや、子どもが産まれたことなどが

なんとなく知れればいいと思っていた。

きみの幸せをずっとずっと願っていた。

それは償いだったし、純粋な愛であった。

きみを愛していたよ、あぁ、久し振りに言うから照れるなぁ。

幸せに生きてほしかった。

いつかきみにもう一度会えたら、とびきり素敵な人になって会いたいと思っていた。

 

それがこんなに早く。

冷たくなったきみに会うなんて。