服とメイク道具が私の味方
冬の日は短い。とっくに外は真っ暗だった。
音楽をスピーカーから流し、よし、とサンローランの化粧下地を手に取る。
ポール&ジョーのジェルファンデーションに、ディオールのアイシャドウ。
ヴィクターアンドロルフのきつめの香水をつけて、ジバンシイのリップを塗る。
誰にも会わないけど。
誰にも会わないからこそ、これは私のためだけのメイクだ。
デパコスは、今日のような日のためにある。
惜しみなく使うのだ。お守りに、ディオールのアディクトを鞄に忍び込ませる。
新宿伊勢丹で買ったコートを羽織って、外へ出た。
12月の寒さは厳しいけれど、今日は伊勢丹と銀座、表参道の服が味方してくれているから大丈夫。
男がタクシー寄越してくれなくても、私は一人で歩ける。
モードエジャコモのピンクシャンパンゴールドの靴を履いてむんずと歩く。
表参道の駅を出ると、欅並木が煌々と金色に光っていた。
あぁ、そんな時期なのね。
幸い、表参道のイルミネーションは
どの男とも一緒に見ていないから落ち込まないで済む。大丈夫。
イヴ・サンローランやフェンディの路面店の窓ガラスに反射する光が美しくてうっとりする。
「ブランド品なんて買う人は馬鹿だ」となじる母親のもとで育った。
大学に通わせてもらえない貧困家庭に生まれた母は、
運良く大企業の正社員になることで、中流階級にのし上がった。
産休も育休もろくにとらずにフルタイムで働き通したフェミニストの彼女は、
「結局、女の人の収入の違いって金持ちの男を捕まえるかどうかなのよね。」
と愚痴をこぼし、金持ちとそれにあやかる専業主婦を忌み嫌っている。
絶対買ってやる。サンローランのミニバッグを持ってライブハウスに行くし、
フェンディのバッグを普段使いするんだ。全部あたしのもの。
そう、暗くなった店内を覗き見ながら誓った。
表参道ヒルズ本館3階のフレンチ。
「一人です」と伝えて、カウンター席につく。
平日の夜遅くだからか、私以外に客はいなかった。
大丈夫。今日のコーデは「仕事帰りの女性コスプレ」だから、
緊張しなくても大丈夫。
私は、仕事終わりに一人でふらっとフレンチ食べに来ちゃうバリキャリ。うん、大丈夫。
前菜2皿、メインとペリエを頼む。
フレンチはいつもコースで頼むから、アラカルトで自分の好きなものだけ食べられるのが新鮮だった。しかも一人だから一緒の相手にメニューを合わせる必要もないの!ああ!なんて自由なんだろう!
自分のゴールドカードでお会計を済ましてそれでおしまい。サインをするだけだ。会計のとき財布を出してみたり、「ごちそうしてくれてありがとう」と言うタイミングを見計らったりしなくていい。
大丈夫。私は自分で自分の機嫌を取る方法を知っているし、
自分の足で歩ける。大丈夫、大丈夫だよ。
私は自由になるために、金を稼ぐ。
これからも稼いだ金で味方を増やしていくんだ。
服とメイク道具が私の味方。
OLにしちゃあ胸元が空きすぎですかね